罪の時効と要件

冤罪被害者、不起訴処分被疑者の救済

  1. 冤罪被害者(無罪判決)の救済
  2. 不起訴処分を得た場合の被疑者補償

冤罪被害者(無罪判決)の救済

冤罪による被害者補償

警察官による不当逮捕・誤認逮捕などの冤罪(えんざい)による長期に渡る拘禁は、その当事者にとっては想像を絶するものがあります。
そのため、冤罪(無罪判決を受けた者)によって被った精神的苦痛や財産上の損害に対しては特別な補償が定められています。

※抑留や拘禁されたものの罪とは認められず、また嫌疑なしの理由で起訴されずに釈放された場合(不起訴処分)には、法務省訓令の「被疑者補償規定」によって補償が行われることになります。

刑事補償法

憲法第40条において、「何人も、抑留または拘禁された後、無罪の裁判を受けた時は、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる」としています。刑事補償法は、この憲法40条の趣旨を実現するため、無罪判決を受けた者への補償を規定する法律です。無罪の裁判が確定した日から3年以内にしなければならないとされています。

抑留・拘禁

1日当たり1,000円以上12,500円以下の範囲内で裁判所が定める額。 拘束の種類・期間や財産上の損失、精神的・身体的苦痛、警察・検察の過失などを総合的に判断して、その額を定めます。

死刑執行

3,000万円以内。 ただし、本人の死亡で財産上の損失が生じた場合は、「損失額+3,000万円」以内の額となります。

罰金・科料

支払った額に加え、1年につきその額の5%の金額が補償。

没収

没収品が処分されてない場合はそのまま返却し、処分済みの場合はその物の時価相当額が補償されます。 ただし、捜査・審判を誤らせる目的で本人が虚偽の自白や証拠捏造をした場合や、併合罪について一部は無罪になったが他の部分で有罪の場合は、一部又は全部が補償されません。

また、免訴または公訴棄却の裁判を受けた者でも、免訴または公訴棄却の裁判がなければ無罪の裁判を受けるべき者と認められる者にも準用されます。

刑事訴訟法

刑事訴訟法188条の2では、「無罪の判決が確定したときは、国は、当該事件の被告人であつた者に対し、その裁判に要した費用の補償をする。ただし、被告人であつた者の責めに帰すべき事由によつて生じた費用については、補償をしないことができる。」とされています。

裁判に要した費用というのは、「旅費、日当、宿泊費と、弁護人の報酬に限る」とされていますが、実際に裁判に必要な鑑定費なども認められる場合もあるようですので、領収書や明細書は申し立て時に添付しましょう。

検察官上訴により検察官の控訴または上告が棄却された者の上訴費用についても補償されます。無罪の判決が確定した後6か月以内に行わなければならないとされていますので、もし、控訴・上告が行われ、それの棄却を待っていた場合には、無罪判決から数ヶ月経過している場合もあるので、早めに行うようにしてください。

国に対する損害賠償請求

このような補償によっても回復されない場合には、国(裁判官や検察官の責任を問う場合)や都道府県(警察官の責任を問う場合)を被告として、国家賠償法に基づいて損害賠償請求をする手段もありますが、 刑事補償法と異なり、公務員の違法な職務行為を被害者自身が立証しなければなりません。

不起訴処分を得た場合の被疑者補償

不起訴処分を得た場合の被疑者補償について

警被疑者として逮捕され、抑留又は拘禁を受けた人が不起訴処分となった場合に、この被疑者補償規程に基づいて、補償を受けることができますが、不起訴処分となった人全てが補償を受けることができるわけではなく、かなり厳しい要件が整う必要があります。

被疑者補償の要件の対象となるためには

抑留や拘禁されたが、不起訴処分になった者のうち、

  1. 「罪とならず」又は 「嫌疑なし」の不起訴裁定主文
  2. 1以外の場合は、その者が罪を犯さなかつたと認めるに足りる十分な事由があるとき

の要件を満たし、補償の申出をしなければなりません。

どこに申出をするのか?

不起訴処分を決定した検察庁。区検察庁であるときは、その上級地方検察庁

どれくらい補償してくれるのか?

拘束(抑留又は拘束)の日、1日あたり、1,000円以上12,500円以下 本人死亡の場合は、相続人等に対して補償交付することができます。 また、補償額の決定には、

  1. 拘束の種類
  2. 拘束期間の長短
  3. 被疑者本人が受けた財産上の損失
  4. 被疑者本人の遺失利益(得るはずであった利益の喪失)
  5. 精神上の苦痛
  6. その他一切の事情

を考慮しなければなりません。

補償額を減額、もしくは全額ナシにされる可能性のある場合

  1. 被疑者本人が心神喪失・心身耗弱(刑法39条)、または14才未満(刑法41条)だということで、罪にならなかった場合
  2. 被疑者本人が、誤捜査・誤審判させる目的で、虚偽の自白をしたり、有罪の証拠を作ったことによって、拘束されることになったと認められる場合
  3. 拘束期間中に捜査(少年法の規定による審判を含む。)が行われた他の犯罪が成立する場合
  4. 被疑者本人が、あらかじめ補償を受けることを辞退する旨の意向を示している場合
  5. その他特別の事情が認められる場合

被疑者補償規程(法務省訓令) 条文

(総則)

第1条 被疑者として抑留又は拘禁を受けた者(少年法(昭和23年法律第168号)の規定により検察官に送致される前に,送致に係る事実につき同法の規定により抑留又は拘禁を受けた者を含む。以下同じ。)に対する刑事補償については,この規程の定めるところによる。

2 この規程は,人権尊重の趣旨に従い,具体的事情に応じて合理的に運用しなければならない。

(補償の要件)

第2条 検察官は,被疑者として抑留又は拘禁を受けた者につき,公訴を提起しない処分があつた場合において,その者が罪を犯さなかつたと認めるに足りる十分な事由があるときは,抑留又は拘禁による補償をするものとする。

(補償内容)

第3条 補償は,抑留又は拘禁の日に応じ,1日1,000円以上12,500円以下の割合による額の補償金を本人に交付して行う。

2 本人が死亡した場合において,必要があるときは,相続人その他適当と認める者に補償金を交付することができる。

(立件手続を行う場合)

第4条 補償に関する事件の立件手続は,次の場合に行う。

(1) 被疑者として抑留又は拘禁を受けた者につき,事件事務規程(昭和62年法務省刑総訓第1060号大臣訓令)第72条第2項に定める「罪とならず」又は 「嫌疑なし」の不起訴裁定主文により,公訴を提起しない処分があつたとき。

(2) 前号に掲げる場合のほか,被疑者として抑留又は拘禁を受けた者につき,公訴を提起しない処分があつた場合において,その者が罪を犯さなかつたと認めるに足りる事由があるとき。

(3) 補償の申出があつたとき。

(補償金額裁定の基準)

第4条の2 補償金の額を定めるには,拘束の種類及びその期間の長短並びに本人が受けた財産上の損失,得るはずであつた利益の喪失及び精神上の苦痛その他一切の事情を考慮しなければならない。

(補償の一部又は全部をしないことができる場合)

第4条の3 次の場合には,補償の一部又は全部をしないことができる。

(1) 本人の行為が刑法第39条又は第41条に規定する事由によつて罪とならない場合

(2) 本人が,捜査又は審判を誤らせる目的で,虚偽の自白をし,その他有罪の証拠を作ることにより,抑留又は拘禁されるに至つたと認められる場合

(3) 抑留又は拘禁の期間中に捜査(少年法の規定による審判を含む。)が行われた他の事実につき犯罪が成立する場合

(4) 本人があらかじめ補償を受けることを辞退する旨の意向を示している場合その他特別の事情が認められる場合

(担当検察官)

第5条 補償の裁定は,公訴を提起しない処分をした検察官の所属する検察庁の検察官が行う。ただし,その検察庁が区検察庁であるときは,その上級地方検察庁の検察が行う。

(補償の裁定)

第6条 補償に関する事件については,補償の要否及び補償金の額を裁定しなけれ ばならない。この場合には,補償裁定書を作成するものとする。

2 補償をする裁定をしたとき又は補償の申出があつて補償をしない裁定をしたときは,補償金の交付を受けるべき者又は申出人に対し,裁定の要旨を通知しなければならない。

(補償金受領期間)

第7条 補償を受けるべき者が,前条の通知書の送付を受けた日から6月以内に補償金受領の申立をしないときは,補償金を交付しない。

(補償の公示)

第8条 補償金の交付を受けた者(少年の時に罪を犯したとして,抑留又は拘禁を 受けた者を除く。)が,交付の日から30日以内に補償公示の申立をしたときは, 官報及び適当と認める新聞紙一紙又はそのいずれかに,補償裁定の要旨を掲載し て公示しなければならない。


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