罪の時効と要件

親告罪の告訴(告訴権者、取り消し、再告訴)

  1. 親告罪(告訴が起訴要件の罪)とは
  2. 親告罪一覧
  3. 告訴権者(告訴できる人)一覧
  4. 複数犯・事件への告訴効果と範囲
  5. 告訴・告発の取消と再告訴の可否
  6. 告訴権の放棄の可否

親告罪とは

親告罪とは

ほとんどの犯罪は、告訴・告発がなくても、公訴を提起(起訴)できます。例外として、告訴がなければ公訴を提起することができない犯罪があり、このような犯罪を親告罪といいます。

親告罪とは、「告訴を公訴提起要件(訴訟条件)とする罪」です。

親告罪がある理由

理由1.被害者の名誉・信用・秘密等の保護

起訴によって事実が明るみに出たり公表されることによって、被害者がさらに不利益をこうむる場合があるため。 秘密漏示罪、名誉毀損罪などは、これを理由に親告罪とされています。

2017年7月に刑法改正によってこれまで親告罪であった「強姦罪」「強制わいせつ罪」は、告訴がなくても起訴できる非親告罪になりました。「強姦罪」は名称を「強制性交等罪」に変更されました。

理由2.事犯の軽微性

被害が軽微でしかも直接公益に関しない場合に被害者が処罰を望まないのに訴追をする必要はない。

理由3.「法は家庭に立ち入らない」(家庭関係の尊重)

犯人と被害者が一定の親族関係にあるとき、法によっていたずらに家庭を壊さないように、親告罪とされています。

そのため、親族間の犯罪に関する特例にある罪は、親告罪とされています 。

告発や請求を起訴要件とする罪

告発を公訴提起要件(起訴要件)とする罪とは

通常、告発は誰でもできるものです。

しかし以下の犯罪に対しては、一般人(告発権者でないもの)が告発することは、捜査のきっかけにしかなり得ず、犯人処罰することはできません。 各罪の告発する権限が認められる者が告発してはじめて公訴提起(訴訟条件)要件が満たされます。

これらの罪は、「告発を待って受理すべき事件」または「告発を待って論ずる罪」とも呼ばれます。

法律の条文の中で告発を待って論ずる旨が明記されているもの

明らかな規定はないが、解釈上該当する(判例が認めた)もの

公務員の告発義務

告発の権限が一般人にないわけではありませんが、公務員等の行うことは一般人には見えずらく、わかりにくいものが多いです。そのため、国家公務員・地方公務員(官吏・公吏)は、その職務を行う上で、犯罪があると考えるときは、告発をしなければならない、とされています。(239条)

ここでいう「官吏、公吏の範囲」は、国家公務員・地方公務員、日本銀行、日本政策金融公庫(旧国民生活金融公庫)などの役職員、指定弁護士(準起訴手続中の)などの、法令によって公務に従事する職員とみなされる者になります。

しかし、実状は、行政法規違反などの形式犯は、告発にまで至らないことが多いです。

請求を起訴要件(公訴提起要件)とする罪とは

「請求」は親告罪の「告訴」にあたり、基本的に「請求」は告訴に準ずる扱いがされます。これらの罪は「請求を待って受理すべき事件」とも言います。

一定の機関の請求を公訴提起要件とする罪(刑法92条)には、外国国章損壊があります。

「告訴」と「請求」を分けるのかというと、外国政府への礼儀のためです。外国政府に対して、日本の刑事訴訟法の手続きを行うことを求めるのは失礼なのではないかという理由です。

ですから、請求時期、方式、相手方は告訴の規定に準じなくても有効とされます。

親告罪一覧

  • 信書開封罪・秘密漏示罪(135条)
  • 過失傷害罪(209条)
  • 未成年者略取罪・誘拐罪、わいせつ・結婚目的略取罪・誘拐罪
  • 拐取幇助目的被拐取者収受罪、被拐取者収受罪と、これらの未遂罪
    ただし、営利目的で犯した場合は非親告罪(229条)
  • 名誉毀損罪、侮辱罪(232条)
  • 親族間の窃盗罪・不動産侵奪罪とこれらの未遂罪(224条)
  • 親族間の詐欺罪・電子計算機使用詐欺罪、準詐欺罪、恐喝罪、背任罪、と、これらの未遂罪(251条)
  • 親族間の横領罪、業務上横領罪、遺失物等横領罪(255条)
  • 私用文書等毀棄罪、器物損壊罪、信書隠匿罪(264条)

その他の法律の親告罪

  • 著作権等の侵害罪
  • 漁業権等の侵害罪
  • 無賃乗車等の罪

告訴権者(告訴できる人)一覧

告訴は誰でもができるわけではなく、その事件によって告訴権を持っている人のみができます。また、告訴権者の代理人(任意)によっても、することができます。

告訴権者(刑法230~234条)一覧

  • 被害者が生きている場合
    ⇒犯罪により害を被った人(=被害者本人) や、被害者の法定代理人(=親権者、未成年後見人、成年後見人)が、被害者の意思と関係なく独立して告訴できます
  • 被害者が死亡してしまっている場合
    ⇒被害者の配偶者、直系親族(父、母、子など)、兄弟姉妹が告訴できます。
    但し、被害者が生前「告訴を希望しない旨」を明らかにしていたときは、告訴できません
  • 被害者の法定代理人が、被疑者である場合、もしくは被疑者の配偶者、親等内血族、三親等内姻族である場合
    ⇒被害者の親族は被害者の意思と関係なく、独立して告訴することができます。
  • 名誉毀損罪の場合
    ⇒被害者の配偶者・親族・子孫が告訴できます。 但し、被害者が死亡している場合で被害者が生前に「告訴を希望しない旨」を明らかにしていたときは、告訴できません
  • 親告罪なのに、告訴をすることができる者がいない場合
    ⇒検察官が指定した者が告訴できます。法律上又は事実上利害関係がある者の申し立てによって指定されます

親族とは

※親族とは、民法725条で規定されています。親族の範囲は以下のとおりです。

  • 親等内の血族(養子縁組など法律上血縁のつながりが擬制された者も含む)
  • 配偶者
  • 三親等内の姻族

図の数字は親等数を表しています。この図では、血族四親等までしか表示されていませんが六親等までが親族となります。

未成年の告訴

意思能力が認められる者は法定代理人(親など)とは別に、自分で告訴ができます。 具体的な判断能力は、事件によっても異なるので、告訴能力を一律に定めることができません。ですから、高校生程度までの未成年者が被害者として告訴をする時は、法定代理人からも告訴をしておくとよいです。 

告訴・告発には、1.訴訟行為の意味・効果を理解できる。2.告訴・告発による結果に伴う社会生活上の利益・不利益(利害得失)の判断ができる。この2つの能力が必要とされています。

過去の裁判例では、中学生程度の被害者にそれぞれ告訴能力を認めています。
強制性交等罪(強姦罪)の被害者……13歳11ヶ月
強制性交等未遂罪(強姦未遂罪)の被害者……13歳7ヶ月
(※現在は強制性交等やわいせつ罪は告訴不要(非親告罪)となりました。)

成年被後見人、被保佐人の告訴

成年被後見人は、意思能力がなく、告訴・告発の能力はないとされますが、一時的に判断し得る状況になったときに、ある一定程度以上の判断能力が認められれば、有効に告訴をすることができる場合があります。しかし、後々に告訴権者としての効力が争われないようにするためにも、成年後見人からも告訴しておきましょう。

被保佐人は、 告訴能力が否定されることはなく、ひとりで告訴することができます。

被害者が複数人いる場合の告訴

被害者が複数人いる場合、例えば、被害物件の所有者と占有者、被害物件が共同所有であった場合など、これら1個の犯罪について被害者が複数人いる場合は、各個人が独立して告訴権を持ちます。

法人、法人格のない社団・財団が被害者のときの告訴

被害にあうのは人(自然人)だけとは限りません。

  • 国、都道府県、市町村など地方公共団体
  • 会社、財団、社団
  • 組合、同窓会、クラブ、など法人格のない団体

これらの団体も告訴権者となりますが、団体内の誰でもが告訴できるわけではなく、それぞれの法人・団体の代表者がしなければなりません。

判例で告訴権者と認められた者

信書開封罪:信書が受け取られる(到達する)までは、被害者は発信人のみ。信書が受け取られた(到達した)あとは、被害者は発信人と受信人が告訴権者として認められています

未成年者略取・誘拐罪:身よりがない未成年を、実子と同様に養育・保護し、事実上の監護権を有する監督者が認められています

器物損壊罪:地方裁判所支部庁舎のガラス戸(国有財産中の行政財産)の損壊 →地方裁判所長も告訴権者となります
地方公共団体が賃借した、効率学校の校庭の土地損壊 →教育委員会、地方公共団体も告訴権者となります
建物の窓ガラス損壊 →建物の賃借人も告訴権者となります
共有関係にあるブロック塀の損壊 →共有者の妻(共有者本人は海外出稼ぎ中)も告訴権者となります

親族間の窃盗罪:妻の親族が行った妻の財産の窃盗は妻のみが告訴権者となり、夫に告訴権はありません。また、 親族間の横領は、持分の多少にかかわらず、被害者と認められます。

複数犯・事件への告訴効果と範囲

主観的不可分の原則と例外(複数犯人)

告訴の主観的不可分の原則

 親告罪や告発・請求を待って受理すべき事件を告訴する場合に、「複数犯人のうちのひとりを(指定して)告訴・告発・請求したとしても、その効力は、犯人全員に対して生ずる。」という原則があります。これは、告訴・告発・請求の取消しについても同じです。

告訴の主観的不可分の例外~相対的親告罪(刑法244)

 一定の身分関係にある者(親族など)が複数犯人の中にいる場合は、告訴人がその者を犯人として指定しない限りは、その者に告訴の効力は及ばない、と解釈されています。 相対的親告罪とは、窃盗罪・詐欺罪・横領罪など、通常は親告罪ではないが、犯人が被害者の親族関係であるなど、両者の間に一定の身分関係がある場合に限って親告罪として扱われる罪のことです。

  • 犯人 A(Cの姉)
  • 犯人 B(Cとは他人)
  • 被害者C(Aの妹)

このような人間関係の場合に、被害者Cが犯人Bのみ告訴したときは、「主観的不可分の原則」の例外として、犯人A(Cの姉)は処罰されません。

C → Bだけ告訴 → Bのみ処罰

親族といえども処罰を求めたい場合は、犯人A(姉)のことをはっきりと指定した告訴をすることが必要です。 被害者Cが犯人Aのみ告訴した場合は「主観的不可分の原則」の例外とはならず、犯人A、犯人B共に処罰の対象となります。

C → Aだけ告訴 → A・Bとも処罰

また、 

  • 犯人 A(Cの姉)
  • 犯人 B(Cの弟)
  • 被害者C

このように犯人Aも犯人BもCと親族関係にある場合は、例外とはならず、

C → Aだけ告訴 → ABとも処罰
C → Bだけ告訴 → ABとも処罰

となります。

客観的不可分の原則と例外(複数事件)

告訴の客観的不可分の原則

 親告罪や告発・請求を待って受理すべき事件を告訴する場合に、ひとつの犯罪事実のうち一部分についてだけ告訴・告発・請求したとしても、その効力は、そのひとつの犯罪事実の全部に及びます。告訴・告発・請求の取消しについても同じです。
この原則は、上記の主観的不可分の原則の前提とされ、理論上、刑事訴訟法も、これを採用していると解されています。

告訴の客観的不可分の例外

科刑上一罪の一方が親告罪、他方が非親告罪で、被害者が同一人の場合

被害者Aが過失傷害罪①(親告罪)・住居侵入罪②(非親告罪)のふたつの被害を同時に受けたとき、被害者Aが非親告罪である住居侵入②のみについて告訴したときは、「客観的不可分の原則」の例外として、過失傷害①については告訴の効力は及びません。

被害者A → 住居侵入②(非親告罪)についてだけ告訴 → 住居侵入②のみに及ぶ

親告罪である過失傷害①について告訴したときは、例外とはならず、両方の罪に及びます。

被害者A → 過失傷害①(親告罪)についてだけ告訴 → 過失傷害①住居侵入②両方に及ぶ

これらは、告訴取消しの場合もあてはまります。

科刑上一罪の組成部がともに親告罪で、被害者が異なる場合

1.犯人 →損壊⇒ 被害者A・Bの共同所有のもの

 Aがした告訴 → Bに対する損壊事実に及ばない

2.犯人 →被害者A(犯人とは他人)の金庫をこわし(損壊)→被害者B(犯人の兄)のお金を盗んだ(窃盗)

Aがした告訴 → Aの被害のみ
Bがした告訴 → Bの被害のみ

東京高裁判例
1個の行為による2個の恐喝未遂が各々被害者を異にする親告罪であるときは、観念的競合関係にある数個の恐喝未遂について被害者のひとりがした告訴は他の被害者に対する恐喝未遂には及ばない

名古屋高裁判例
1個の行為で数人の名誉を毀損した場合に、被害者の一部がした告訴の効力は他の告訴をしない被害者に関する部分にまでは及ばない

告訴・告発の取消と再告訴の可否

親告罪の告訴取り下げと再告訴の可否

親告罪については、告訴してから公訴の提起(起訴)があるまでの間は、告訴を取消すことができます。また、告訴をいったん取消した者は、再度告訴することはできません。
告訴を取り消すことができるのは、告訴をした本人に限られます。(本人の代理人によってすることも可能です)

告訴を材料に民事的示談をしようとした場合に、告訴を取消した後に示談合意できず、再度告訴しようとしても、できませんので注意が必要です。

非親告罪の取下げと再告訴

通説では、非親告罪については、起訴後でも取消すことができ、また、取消した後に再告訴をすることができると考えられています。

非親告罪は、そもそも告訴を必要としませんから、たとえ告訴が取り消されたとしても検察が必要と考えたときは告訴人の意思にかかわらず起訴することができるからです。

請求を待って受理すべき事件の場合

 請求を待って受理すべき事件は、親告罪の告訴に準ずる扱いがなされます。ですので、取り消しは可能ですが、再告訴はすることができません。

告訴権の放棄の可否

告訴権放棄について

告訴期間内に告訴権を放棄することができるかどうか、法律や学説などによってその解釈は異なります。

刑事訴訟法 ― 告訴権放棄の規定はない

学説 ― 告訴権の放棄を認めてよい。その理由は、親告罪で告訴期間の経過を待たず、早期に事件捜査を終わらせることができるから

判例 ― 告訴権の放棄は許されない。その理由は、刑事訴訟法に放棄規定がないこと、告訴権は自由に処分できる性質のものでないことです。 実際に、最高裁判例では、告訴権放棄は許されず、その後の告訴は有効と示されたり、他にも、高松高等裁判所では、犯人に対する告訴権不行使の意思表示後の告訴も有効、名古屋高裁では、警察官に対して告訴権放棄の意思表示をしても無効、告訴することができる、などの判例があります。

告訴権の行使ができなくなるとき

 次のときに、告訴権の行使ができなくなります。

  • 公訴時効が完成したとき
  • 親告罪で告訴権者が、犯人を知った日から6ヶ月を経過 したとき
    (例外)外国君主・大統領・使節への名誉毀損罪・侮辱罪
  • 略取誘拐の罪で、被害者と犯人が結婚したとき、告訴後でも公訴提起後でも告訴できなくなります。但し、婚姻の無効・取消があったときは再び告訴可能になります

関連ページ(広告が含まれています)

罪の時効と構成要件カテゴリ

時効と告訴

告訴時効と公訴時効、刑罰の種類

告訴・告発とは、告訴状サンプル書式

親告罪の告訴(告訴権者、取り消し、再告訴)

告訴告発後の結果通知と被害者救済

▼冤罪の救済

冤罪被害者/不起訴被疑者補償

罪の条文・構成要件・時効

▼個人的な罪

傷害・暴行罪

過失致死傷罪

名誉毀損・侮辱罪

▼国に対する罪

職権濫用罪

収賄・贈賄罪

横領・背任罪

▼社会に対する罪

私文書偽造罪