罪の時効と要件

横領・背任罪、業務上横領罪、遺失物等横領罪の条文、時効、構成要件

  1. 背任罪(247条)
  2. 横領罪(252条)
  3. 業務上横領罪(253条)
  4. 遺失物等横領罪(254条)
  5. 告訴状作成時の注意点

横領罪(業務上横領罪、遺失物等横領罪)、背任罪の保護法益は、「他人の財産」です。 窃盗・強盗・詐欺・恐喝罪と異なる点は、他人財物の占有侵害がないところです。

(単純)横領罪と業務上横領罪(253条)は、他人の信頼に背いて財産的損害を与えることに特色があるため、これらを委託物横領罪ともいいます。 非親告罪なのですが、犯人が親族関係者の場合は親族相盗の規定(244条)が準用され親告罪になります。

背任罪(247条)

刑法247条 条文

他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

背任罪について

他人のために事務処理をする者が 自己又は第三者の利益を図る目的や本人(被害者)に加害する目的(損害を与える目的) で、任務違背の行為をし、その結果、財産上の損害を与えることによって成立する罪です。

この場合の「利益」・「損害」は、身分上・精神上・社会生活上の利益・損害すべてを含みます。

背任罪は、委託物横領罪(単純横領罪(252)、業務上横領罪(253))と同じで、信頼関係違反(背信)により財産的侵害をするものと解されています。(通説・判例)

「他人のためにその事務を処理する者」とは

他人との委任・信任関係に基づいて、注意を払ってその他人の事務(法律行為・事実行為に関する事務)を代わって処理する法的任務を有する者のことをいいます。委任・信任された経緯に関わらず、法令・契約・慣習・身分など、いずれも根拠となり、義務なくして他人のために事務管理をする場合も該当します。

未遂罪について

背任未遂罪は、背任行為には着手しているが、結果的には被害者に財産上の損害が加えられなかった場合に成立し、罰せられます。 また、自己の財物の特例(242条)、親族間の犯罪に関する特例(244条)、電気等の財物性(245条)の規定が準用されます。

背任罪の時効

背任罪の公訴時効は、3年です。

横領罪(252条)

刑法252条 条文

自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の懲役に処する。

2  自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。

(単純)横領罪の構成要件と時効

すでに、自分が占有(預ったり、自分の手元にある状態)をしている他人の所有物を不法に領得(自分のものにしてしまうこと)することによって成立する罪です。

また、自分のものであっても公務所から保管を命じられたものを不法領得しても成立する罪です。

不法領得の意思とは

自己の占有する他人の物を不正に領得する意思のこと

未遂罪について

心の中で思っただけでは罪にならず、この不法領得の意思が客観的に認められたときに犯罪成立となるため、未遂罪はありません。

横領罪における「占有」

財物に対する事実的支配だけでなく、法律的支配(例:土地建物などの登記)も含みます。

横領罪となるもの(具体例)

横領罪の公訴時効は、5年です。

業務上横領罪(253条)

刑法253条 条文

業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する

業務上横領罪の構成要件と時効

業務上の理由で自分が占有することになった他人の所有物を不法に領得(自分のものにしてしまう)することによって成立する罪です。

財物占有の根拠が業務上のものであるがゆえに、通常の単純横領罪に比べて、法定刑が加重されています。それ以外は単純横領罪と同じです。

「業務上」とは、

人が社会生活を維持する上で反復・継続して従事する仕事のことで、職業や営業として行うかどうかは問われません。継続する意思があれば1回の行為でも業務とされます。

業務上横領罪の公訴時効は、7年です。

遺失物等横領罪(254条)

刑法254条 条文

遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。

遺失物等横領罪の構成要件と時効

本来の占有者の手からその意思とは関係なく離れた他人所有の財物について、不法領得(自分のものにしてしまおうという)の意思をもって、その占有を取得すると成立する罪です。 拾った物を警察に届けず自分のものにしてしまった場合も、成立します。 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物とは、

ただし銭湯、旅館、ホテルなどの客の置き忘れた物は、その場所の事実的支配者(経営者)の占有に移るので、この物を領得した場合は、窃盗罪になります。また、犯人と被害者が親族関係にある場合は親族相盗の規定(244条)が準用され親告罪になります。 

遺失物等横領罪の公訴時効は、3年です。

告訴状作成時の注意点

加害者との間に、委託・信任関係があるときは、その関係成立時期や成立経緯を明らかにします。他人の財物を占有している状況・状態も明記します。

民事上の損害賠償請求とは異なり、たとえ加害者が認めていたとしても、明確にその金額を証明できる分しか裁判所では認めてもらえません。繰り返し行われた横領・背任行為については、そのすべてを証明することは難しいかもしれませんが、できるだけ多くの証拠を集めてください。

横領の場合

横領が行われた日時や場所、加害者が「横領」の意思があったこと、どのように横領を行ったのかを詳しく記します。着服・横領は繰り返し行われていることが多いですから、表などにまとめ被害状況が一目でわかるようにしたり、それぞれの犯行について証人や証拠をそろえましょう。 不動産や車などの横領は二重売買の形で行われることが多いです。

背任の場合

背任行為が行われた日時や場所、どのように背任行為を行ったのかを詳しく記します。

背任罪では、①任務違背の事実と②それによって財産上の損害を加えるであろうことを認識をしていることが必要ですが、確定的な認識でなくても足りますので、この2点は必ず示しましょう。


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